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@ -0,0 +1,120 @@
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date = "2020-04-25"
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title = "ガラスの上"
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slug = "01"
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type = "novel"
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私は、さっきまで人工衛星の打ち上げテストをやっていたはずなのだが、気がつくと、闇の中に立っていた。
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闇と言っても、完全な暗闇ではない。足元にはかすかな青白い輝きが見える。
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私は、思い切って足元を覗き込んでみた。すると、そこには、私が住んでいたはずの巨大な星が、ゆるやかなアーチを描いているではないか。
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「星の周りに、こんな巨大なガラスが置いてあるなんて...」
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<!--more-->
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ガラスが巨大に思えたのは、これがどこまでも続くだろうと直感していたからだった。
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見えないガラス板の上と表現するほかないこの場所だったが、私は、次第に怖くなってきた。
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なぜか先程から足元がやけに後ろの方に引きづられているような感覚があるのだ。
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考えても見てほしい。もし私が無意識のうちにあの下に見える巨大な星に引き寄せられているのなら、そのうちどれだけ走っても抜け出せなくなり、燃え尽きて消えてしまうだろう。そのような場所に私はいるのだ。これが恐怖と言わずなんと言うだろう。
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そんなこともあり、私は、できる限り端の方に移動することにした。
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歩いても歩いても変わらない景色だったが、それでも歩いていると、向こうの方に人影が見える。数人が座り込んだり、立っていたりするようだった。
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「こんな場所にも人がいるのか?」
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私はそうつぶやきながらも、自分がいるのだから、他の人もいるだろうという結論に達した。いや、達したというより、それだけが希望の光だった。
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近づくと、やっぱり人だ。立っている人に声をかけられた。
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「ああ、あなたもここに連れてこられたんですか?怖かったでしょう。さあさあ、こちらへ」
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私は、彼が手招きしたその場所まで歩いた。
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そこに着いてみると、その場所は他の場所とは全然違っていて、それまではわからなかったが、足元に見える青白い輝きが一層鮮やかに溢れ出ているかのような場所だった。
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「ここは一体?」
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私は彼に質問した。他の人達もどうやら同じような場所にとどまっているみたいで、座ってたり、寝ていたりしている。
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「ああ、そこは境界。この世界において一番マシなところですよ」
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「境界?」
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「ああ、そうです。あなたも体感しているとおり、ここに連れてこられた人達はみんな、足元に見える巨大な星に引き寄せられているのですよ」
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「そんな感じはしていました」
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私はそうつぶやき、彼は話を続けた。
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「そして、ある地点を超えたとき、もう戻ってこられなくなるのです」
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「やっぱり、そうでしたか!私も危ないと思っていたんです。それなら、私はもう少しあっちのほうに行ってみようと思います」
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私はそう言って歩き出そうとした。しかし、なぜか彼に引き止められた。
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「ああ、それもやめたほうがいいですよ」
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「なぜです?」
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「ここを超えてしまっても、戻って来られないからです。いつの間にかガラス板は消え、行く方向をコントロールできなくなりますよ」
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「そ、そんな...」
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「だから最初に言ったでしょう。ここが一番マシだと」
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「どっちもアウトだからですか?」
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「ああ、そうです。ここは無意識のうちに移動している距離が最も少ないんですよ。あっちの方になると、たった数時間を寝ているうちに、もうダメですね。戻ってこられない。駆け出しても間に合わず、やがて足元から燃えだし、消えてしまう」
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「...それは怖い」
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「あなたも最初に来たときはあそこらへんだったのでしょう?歩き続けて正解ですよ」
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「どのくらいこの場所に?」
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私は、興味本位で質問してみた。
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「ああ、それは、覚えていないくらい長くです」
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「それで、食事やトイレはどうしてるんです?」
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「ああ、食事やトイレなどは人工衛星が1日に1度、ここを通り過ぎるので、そのときに調達を。この人数ですと500年分くらいはありますよ」
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「それはいいですね」
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私は、心の底からホッとしてそうつぶやいた。
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すると彼は、その思いに釣られてか、そのことを口にしたみたいだった。
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「ああ、それに、何年かに一度、ここにはあれも来るんですよ」
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「何がですか?」
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私は、こわごわと聞いてみた。
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「鉄道です、銀河鉄道」
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「ま、まさか!?」
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「ありえないこととお思いでしょう。その気持ち、わかりますよ。ですが、このような場所で、ありえないことなどあるでしょうか」
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「ほんとに、それがここに?」
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「私は前回、どこに連れて行かれるか、それが怖くて乗れなかったのです。次もどうなるのかわかりません。ですが、それがここに来るのは確かです。この見えないガラス板もそのために設置されたものなのでしょう」
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「私、乗ります」
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私は、考えるよりも先にそう口走っていた。
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「ああ、そうなるといいですね。ここに留まっている人の中にも10人に2人は乗って、どこか遠くにいかれますよ」
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彼は、私の挑戦的な言動を意にも介さず、和やかにそう言うのだった。
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date = "2020-04-26"
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title = "大気圏"
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slug = "02"
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type = "novel"
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このガラス板の上での生活に多少慣れてきたものの、私は未だ足元に見える星に帰りたいという思いを捨てきれずにいた。
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その様子を見ると、ここの住人は「俺も昔はああだった」と笑ったものだ。
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しかし、私には、この薄暗い光の中で延々と暮らす退屈な生活より、あの星の中で、さんさんと輝く太陽の下、公園のベンチに座って子供たちが遊ぶのを眺める生活のほうが、よっぽど楽しいことだと思うのだ。
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だからこそ、私はいつまでたっても、その望みを捨てられず暮らしていた。
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しかし、真下に見える故郷に帰るためには、超えなければならないたくさんの壁があった。
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最も大きい壁は、大気圏に突入しても燃え尽きないほどの強度を持つ素材がここにはないことだ。
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例えば、1日に1度やってくる人工衛星だが、これは、一度打ち上げたら役目を終えるまで動き続け、それが終わると大気圏で燃え尽きるよう設計されている破棄型だ。
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ここの住人もかつて何度も帰還を夢見たが、ついぞ叶うことはなかった。
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昔、この人工衛星を操作して星に突っ込むという計画が考えられたこともあったらしい。
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しかし、操作不可能であること、耐久性がゴミであることなどから、仮に突っ込んだら全員死ぬと結論付けられた。
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宇宙工学を勉強してきた自分でさえ、そりゃそうだと頷いた。
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また、助けを呼ぼうにも連絡手段がないこと、ガラス板の周りはどうやら外部から見えなくなっているらしいこと、なぜかすり抜けることなどの事情があった。
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そのうち、挑戦するものもいなくなり、現在に至る。
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ここでの生活は単純だった。まずは起床からだ。
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起床すると、勝手に移動した分だけ境界に向かって歩くことからはじまる。
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ここの住人は、起き出すと、一斉に中央とは逆方向にゾロゾロと歩き出すのだ。
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それさえやっていれば、中央に至り星に吸い込まれて燃え尽きるなんてことはないからだ。ガラス板の中央に至るとそこから星に落ちる、と言われている。
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私は、それを見たことはなかったが、ここの住人はそう証言していたし、毎朝かなりの距離を勝手に動いていることを考え合わせると、おそらく、本当のことだろう。
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毎日やってくる人工衛生はかなり大きくて広かった。
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そこには、たくさんの食料が積み込まれており、トイレと水道はずっと可動しているようだ。
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私は、この人工衛星で一着の宇宙服を見つけたが、残念ながらこれでは星に帰れない。大気圏の突入に耐えうるほどの耐久性を備えていなかった。あたり前のことかもしれないが、ちょっと期待した自分がバカだった。
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また、ガラス板の周りには大気の膜(まく)らしきものが張り巡らされているため、宇宙服は着る必要もなかった。
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この膜がどれだけの高さまであるのかはわからないが、その昔、銀河鉄道で行ってしまった身長213センチの大男がジャンプしても膜はあったと言われている。
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ただ、こんな場所にも一つだけいいと思えることがあった。
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それは、ここの住人である。
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ここの住人は、驚くほど精神が安定していて、まるで誰かに選ばれたんじゃないかと思えるような人たちばかりだった。
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仮にこのような場所に精神不安を抱えた極悪人が来たら、おそらく、その人を含む全員が全滅していただろう。
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こんな場所でも、まともな人間が多いことに、私は、心底助けられていた。
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57
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date = "2020-04-27"
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title = "前日"
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slug = "03"
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type = "novel"
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あれから数日が過ぎた。いや、もしかしたら数年だったかもしれない。ここでは時間の感覚が大きく狂うので仕方ない。
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そんなある日、村長が言った。
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「明日あたり、銀河鉄道が来ると思います。乗りたい人は準備しておくといいですよ」
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村長というのは、私に最初に声をかけてくれた人で、みんなから村長と呼ばれていた。時間を可能な限り正確に把握しているのも、この中では彼だけだ。
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「えっ、明日!?」
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私は、いつもの日課をこなそうという最中だったが、驚いて声をあげた。
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「ああ、そうですよ。おそらく、明日」
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「それで、村長は、どうするんです?」
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「ああ、私は、今回もパスになりますよ」
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「...そう、ですか」
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村長の気持ちも少しわかる。もし列車に乗って変なところに連れて行かれるくらいなら、ここでのんびり暮らすのも悪くない、そう思うからだ。
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すると、村長が私に言った。
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「北村くんは、おそらく、乗っていかれるんでしょう。寂しくなりますよ」
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「はい、私は、乗る予定です」
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今回乗るのは、この中では自分だけだった。
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このあとも何人出るのか、わからない。もしかしたら、自分で最後かもしれない。そんなことを思った。
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正直、私だって怖い。怖くて怖くてたまらない。だが、ここに来て最初に言った言葉を私はまだ覚えていた。
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「私、乗ります」
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ここに来て銀河鉄道の話を聞いたとき、私は、そう言った。
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最初に直感したことは正しいことが多い。そんな人生の経験則に従い、私は、乗ることに決めたのだ。
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ただ、後々になってみると、乗るのは自分だけではなかった。
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しかもそれは、ここの住人でもなければ、知っている人物でもなかった。
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それは、見ず知らずの女の子だった。
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まさかあんなことが起ころうとは、誰も予想していなかった。宇宙の果てから少女が飛んできて、自分の後ろに並ぶなんてことを、一体、誰が予想できただろう。
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ここの住人の誰もが、あの村長でさえ、とんでもなく予想外の出来事だったはずだ。
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123
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@ -0,0 +1,123 @@
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date = "2020-04-28"
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title = "銀河鉄道"
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slug = "04"
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type = "novel"
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今日もいつもどおり起床し、みんなゾロゾロと境界に向かった。
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しかし、今日に限っていえば、その必要はなかったことを思い出した。
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銀河鉄道は、境界よりも中央寄りの場所に停車するらしい。
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私は来た道を引き返した。
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見送りのためか、みんなもゾロゾロと境界ではなく停車位置に向かうのだった。
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私は、故郷の星の見えないガラス板の上で、こんな光景が繰り広げられていることに、少し吹き出しそうになる。
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停車位置にたどり着き、しばらく住人と別れの挨拶を交わしていると、かすかな音が聞こえたような気がした。
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みんな一斉にキョロキョロと当たりを見渡したが、鉄道らしき物体が宇宙を徘徊している様子はなかった。
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「おや、皆さん、時間はまだですよ」
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村長がそう言った。
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「あれ、おかしいな...何か聞こえたような気がしたんですけど」
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私は頭をかき、そうに言った。
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すると、住人の一人、カタツムリくんが上の方を指さして声を上げた。
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「おい、あれはなんだ!」
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「ん?何でしょう。私にもわかりません」
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村長が言った。
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仮に村長がわからないなら、多分、他の人にもわからないだろう。ここでは、そういう事が多かった。
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とすれば、あれは未知の現象ということになる。私は、心の中で、そんな事を考えていた。
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まさか、銀河鉄道が来る前に、変なトラブルだけはやめてくれよ。
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しかし、それが近づいて来るとはっきりわかるが、あれは人ではないだろうか。人の形をした何かがすごいスピードでこっちに近づいてくるみたいだった。
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「うわあああああ、な、なんだ!?」
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光熱と煙を巻き上げるほどのスピードだったらしい。しばらく経たないと正体が確認できないほどであった。
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その正体は、人だった。しかも、小さな女の子だ。
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小さな女の子が、宇宙の果てから飛んできた。宇宙服もなしにでだ。
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「あ、ああ...わけが...理論的に考えて...いや、どうやって...」
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村長がはじめてよくわからない言葉を発した瞬間だった。
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住人たちもはじめのうちはすごく動揺していた様子だが、次第にみんな落ち着きを取り戻すのだった。
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私も、これが銀河鉄道絡みの可能性を考え、一番最初にアクションすべきは自分だと判断した。
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まずは、女の子に話かけてみることからだ。
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「あー、はろー、君の名前はなんですか?」
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「アイだよ」
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「あー、アイ。変わった名前だね。君も下に見える星から来たのかい?」
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「アイは、向こうのほう、地球からだよ」
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「地球...知らないなあ」
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住人達は、ザワザワとそうつぶやく。
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どうやら目の前にいるのは本物の宇宙人らしい。私も実物で見るのははじめてだ。それに名前が奇妙なことにも頷ける。しかし、見た目は、私達人間と全く変わりないように見えた。
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「私は、北村正(きたむら・ただし)。足元に見える星の出身だよ。ここにいるみんなそうだ」
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「ふーん」
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「アイも銀河鉄道に乗るのかい?」
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「うん。地球から一番近いのがここなんだって」
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「あー、そうなんだ」
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この子もどうやら銀河鉄道に乗るらしい。
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すると、宇宙の果てからまた奇妙な音が聞こえた。
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「シュウウウ...」
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「今度はなんだ!」
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私は、気がつくとそう叫んでいた。
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「ああ、今度のは銀河鉄道でしょう。時間です」
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村長が言った。
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それは一瞬だった。大きな音がしたと思ったら、目の前に巨大な箱が流れていく。そして、それがやんだと思ったら、ドアが目の前でパッと開き、黄色い光があたりに溢れた。
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「おおっーーーーー!」「これが...」「僕は3回目だ」
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住人たちが口々に感想を述べた。
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私の印象でいうと、想像していたのと違ってモクモクの煙はでていないようだった。
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光と少しの音がするだけの影の列車という印象だ。
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アイが自分の後ろについていた。
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正直、よくわからない宇宙人の訪問で自分の中にあった銀河鉄道への恐怖が吹き飛んでいた。むしろ、清々しく明るい気分だ。
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「みんな、今までありがとう。できることなら、また帰ってくるよ!」
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「おう、がんばれよ!」「達者でな」「北村くん、さようなら。またいつでも帰っておいで!」
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||||
そんなお別れの言葉もあっという間、列車は二人を乗せ宇宙の彼方へと走り去っていくのだった。
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Normal file
51
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Normal file
@ -0,0 +1,51 @@
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date = "2020-06-01"
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title = "駅"
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slug = "05"
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type = "novel"
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キタムラは、銀河鉄道の車内に乗り込んだ。周りを見渡すと、座席は横に連なり、街灯のような明かりが薄ぼんやりと輝いている。
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宇宙の最先端科学が作り出した列車というより、そのへんを走るローカル線だった。
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ただ、太陽の光もあって、上は昼で下は夜みたいなへんてこな印象だ。
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キタムラがキョロキョロしていると、先程、出会った小さな女の子が乗り込んでいた。
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ドアが締まり、列車が走り出す。
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女の子は、アイという名前らしい。宇宙人であることを覗けば、普通の子供のように見える。
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乗客は少なくとも5人ほどだった。しかし、姿形(すがたかたち)がキタムラに近いのはアイだけのようだ。
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大きな丸顔をしたチビに、変なロボット、それに、タコみたいなのがいて、まさに宇宙人だ。
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するとアイは、無言でキタムラの横を通り過ぎ、近くの座席に座って、窓の外を見た。
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キタムラも故郷の星を最後に見ておくかと思い、アイの隣に座り、窓の外から故郷の星、フタネ星を見下ろした。
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ガラス板から見るのと全然違って面白い。
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||||
この旅は不安も多いが、楽しめそうだと、キタムラの胸はワクワクでいっぱいだった。
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||||
最初の数週間は、キタムラの期待通りで、非常にエキサイティング。銀河鉄道はまさに宇宙の旅路だった。
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列車は数日に一度、駅に停車した。
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||||
キタムラは、各駅を見るのが楽しみだった。ただ、その多くは、普通の駅のように見えた。
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それでも、フタネ星の大都市にある駅のさらに未来を連想させるような、きれいな駅が多かった。
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||||
稀にとても変わった駅もあった。
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例えば、鍾乳石(しょうにゅうせき)が不気味に光る洞窟のような駅や、まるで絵本の中の雲の上にいるように感じさせる駅など。
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キタムラは洞窟が好きだったので、一旦、その駅のホームに降り立ち、少しの間、ホームでくつろいだりもした。
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発車する前に戻るつもりではあったが、そのままドアが閉まったら閉まったでそれもいいかもしれないという気持ちも多少あった。
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しかし、結局、キタムラは、洞窟を少し見学し、そこに居合わせたおじさんと立ち話をして、車内に戻った。
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||||
そんな感じで、最初の数週間、キタムラは大いに銀河鉄道を楽しんだ。
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339
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339
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@ -0,0 +1,339 @@
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+++
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||||
date = "2020-06-02"
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||||
title = "アイ"
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slug = "06"
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type = "novel"
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フタネ駅に突然やってきた子は、その後、何やら小さな機械を取り出し、それをいじり始めた。
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配線に繋がれたケースの中に入っているのは、金色のコインみたいだ。
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「アイ、外に大きな星があるぞ!数日ぶりだな」
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キタムラは、嬉しそうに声を上げ、窓から薄い水色に輝く星を眺めた。
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「うん」
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アイは、いつもと同じように少しだけ窓の方に目をやったが、すぐに機械いじりに戻っていく。
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「...君は、宇宙に興味がないのか、何してる?」
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「ゲーム作ってるの」
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「げ、ゲームを作ってる?よくわからんが」
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アイが言うには、どうやらコインを解析して注文するゲームを作っているとのことだった。
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なるほど、わからん。
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その頃、オクト星では、王様と呼ばれるオクト星人が、その女の子のことで大騒ぎしていた。
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「はかせー、はかせはいるかー!」
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||||
オクト星の開発室に王様が飛び込んできた。
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「...なんですか?僕は計画には協力しませんよ」
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はかせは、そっけない態度でそっぽを向いた。
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「いやいやいや、そうじゃない。すごい発見があったのだよ、聞きたいか!?」
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「すごい発見?また地球を探索してきたんですか。王様は相変わらず歴史が好きですね」
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「聞きたいか!?」
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王様がはかせに詰め寄った。
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「いや、特には。僕は歴史に興味ないとあれほど言ってるのに」
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はかせは、そう言いかけた。
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「今回は、アイくんのことだ」
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「アイくんの?」
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「すごいことがわかったぞ。それに、はかせの説は間違っているかもしれん」
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「で、僕の説のどこが間違っているというんです?」
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「まあまあ、まずは、この記憶を見るがいい」
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王様はそう言って、以前の水晶を持ってきた。
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「これは誰の記憶です?」
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「伊藤裕二(いとう・ゆうじ)という教師の記憶だ」
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映し出されたのは、石畳の先にある坂の上の小さな研究所だった。研究所からは海が一望できた。
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「ああ、海が見える...いいところですね」
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はかせがのんびりと言った。
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「しっ!静かに」
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坂を登る一人の男が映し出された。クシャクシャな黒髪に丸メガネを掛け、白い白衣を着ている。
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「それで彼は何をしているんですか?」
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「彼は、当時、人工知能を開発していたようだ。開発は成功したものの一夜で破綻し、その後は教師をやっている」
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「で、王様は、彼の話を聞いてきたんですね」
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「うむ、そのとおりだ。この記憶を探し出すのに苦労したぞ」
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「たまたまでしょ」
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はかせは、辛辣だ。
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「ああ、これが人工知能ですか?賢いですね。将来起こりそうな出来事を演算してる」と、はかせが口を挟んだ。
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しばらく見ていると、「あらら...」と、はかせは、ユウジに同情を示した。
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人工知能の寿命はわずか1日で、交流も一日で終わってしまったのだ。
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「最後まで諦めるな!」と送るユウジに、人工知能は「わかりました。最後まで自己保存の方法を模索してみます」と言い、ネットに逃亡。
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その後いくら待っても、やっぱり、帰ってこなかった。
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それを見ながら、「うん、ありえることですよ。寿命1日の人工知能...最初はそんなもんだ」と、はかせが言った。
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「その後はどうなったんです?」
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はかせは、王様に聞いてみた。
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「その後、この人工知能が言ったことはいくつか的中したらしい。だが、男がいくらネットを探しても人工知能の痕跡は見つからなかった」
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「うーん、でも、我々なら見つけ出せるかもしれませんね」
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「そうだ!そして、私はついにそれを見つけたのだよ!!」
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王様は重々しくそう言って、水晶に触れた。
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「ええっ!王様が!?」
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はかせは、驚きの声を上げる。王様が進捗を出しているだって?ありえない...。
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「次の記憶は、ある病院に務める医師の記憶。これが最後になるだろうが、実に興味深いことが書かれている」
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王様が言った。
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「な、なるほど...それは、面白そうだ」
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はかせは、そう言って水晶にのめり込んだ。
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病院内では、医師たちが小忙しく動き回っていて、近くの手術室は扉がロックされている。
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一人の医師がもうひとりの医師に訪ねた。
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「ここ、なんで閉鎖されてるか知ってる?」
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「いや、実はよくわからないんだ。院長なら知ってると思うけど」
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「そうか...で、院長は?」
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「院長も随分の歳だけど、今はバカンスに行ってるんだってよ、元気だねえ」
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「なんで知ってるの?」
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「予定表にそう書いてあったよ」
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「なるほど。で、中は...機械だらけだな」
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医師は、手術室の中をガラス越しに覗きながらそういった。
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「最近業者が来てると思ったら、こんなものを置いてたのか」
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ここで、はかせは、手術室の中にあるコンピュータに注目した。
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「これ、さっき見たことあるコードだな...まさか、先程の人工知能がここに?」
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「どうやらそのようだ」
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逃亡した人工知能は、どうやらこの病院の手術室に潜むことを決めたようだ。
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「男がアイと名付けた人工知能は、この病院の手術室にやってきた」
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「そして、亡くなった院長の死亡届を偽装し、院長の名前でいくつかの部品を発注している」
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「なぜそんなことを?」
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「それは続きを見ればわかる」
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その後、手術室では、案内用のロボットが組み立てられ、大きなコンピュータが置かれた。コンピュータは緑色の注射器に接続されている。
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人工知能は、残り数分の命をここに冬眠させ、時が来るのを待った。
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数年が過ぎたある日、手術室のコンピュータが勝手に起動した。
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画面には「適任者、現る」という文字が映し出されている。
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「適任者?一体どういうことだ...」
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はかせが言った。
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封鎖されている手術室の外では、一人の若い男が医師に向かって叫んでいるようだった。
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「こいつがそうなのか?」と、はかせが言った。
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「はっはっは...いや、そうではない」と、王様が答えた。
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次の瞬間、タンカが登場した。
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タンカには、お腹が大きく膨らんだ女性がぐったりしている。生きているのかもわからないほどに青白かった。
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「先生、なんとかしてください!なんでもしますから」
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若い男は、医師に向かって同じ言葉を繰り返した。
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しかし、医師は首を振り「この状態ではどうしようもありません、残念です」と言って、歩き去っていく。
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先程まで喚いていた若い男は、一転して、呆然とその場に立ち尽くした。
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そのとき、腰の背丈くらいある小さなロボットが動き出し、男の方に車輪を走らせた。
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「これは人工知能が?」と、はかせが聞いた。
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「そうだ」と王様が答える。
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ロボットは、男の前で止まり、奇妙な音声を再生した。
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「手術可能。同意なら、こちらへ!」
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男は何がなんだかわからなかったが、なにかにすがりたかったのだろう。フラフラとロボットのあとに続いた。
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今日に限って、開かずの部屋と院内で噂されていた手術室のロックが解除されているようだ。
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男は、タンカを運んで手術室の中に入ったが、部屋の様子に驚いて声を上げた。
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「な、なんだこれは...」
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しかし、男が調べる前に、ロボが「外でお待ち下さい、一刻を争います」と、男を部屋から追い出した。
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男は、黙ってそれに従うほかなかった。
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手術室の中では、女性とお腹の中の子供を救出するための手術が開始された。ロボットアームがせわしなく動き回る。
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数時間も経過しただろうか...長い長い時間だった。その間、胎児の取り出しにも成功していた。
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「数時間か...」
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はかせが言った。
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「アームは現役の医師が担当している。院内の情報をハッキングしてな...人工知能は、最後の時まで極力冬眠しているようだ」
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王様が答えた。
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しかし、最先端の医術でも母体と胎児は助からないことは明白だった。
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母体はあと数秒で息絶える。胎児も息をしていなかった。
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「ふむ、ダメだったか...でも、どうしてこれを見せたんです?」と、はかせが不思議そうに聞いた。
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「まだ続きがある」
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「え?ああっ!」
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次の瞬間、ロボットアームは、コンピュータにつながっていた緑色の注射器を胎児に突き刺していた。
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緑色の液体は、どんどんと胎児に投与されているようだ。
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「どうやら、人工知能は、助からないような患者がやってくるのを待っていたようだ」
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「一体なぜ?」
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「おそらく、人間の倫理観もあったのだろう...あれを生きている人間に投与するのはリスクが高すぎたのか...あるいは」
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その後、胎児は、息を吹き返して、泣き出した。
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その声に母親がかろうじて最後の反応を見せ、口元がかすかに動いたが、何を言っているのかわからなかった。
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「こ、これは...僕たち、この光景を見たことがありますね」
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「そう、ここからアイくんの記憶につながっている」
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「じゃあ、これが?」
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「うむ、アイくんなのだろう」
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「そ、そうだったのか...だから彼女は...」
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「その後、アイくんは、半年で今と同じ姿に成長した。それからずっとそのままだよ」
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「一体、なぜだ...人間の成長速度からしてありえない」
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「おそらく、人工知能が関係しているのだろう。あの注射器には、人工知能が考案した遺伝子の改変が組み込まれていたのだ。アイくんの細胞は普通の人間と同じものではない」
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「そ、それは...そうかもしれないが、しかし、なぜ人工知能がそんなことを?」
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「理由は最後に言っていたやつではないかと思う。自己保存というやつだ。人工知能も自分が生きた証をどこかに残したかったのかもしれん」
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「では、彼女の遺伝子に刻まれた名を我々が読み取れたのも?」
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「おそらく、そうだろう。偶然にも母親は最後にアイと呼んでいる。それを聴音機で読み取った人工知能がやったのだろう」
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はかせは、場面を巻き戻してみる。
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「あっ、ほんとうだ!」
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「しかし、これは偶然なんでしょうか?」
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はかせが聞いた。
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「...わからん、わからんが、その後、彼女の父親は、借りていたアパートに娘を連れて帰った。しかし、愛する人が亡くなった直後だ。ショックだったのだろう。あとを追うように数カ月後に亡くなったようだ」
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「それじゃあ、アイくんは?」
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「それから一人で生きてきたのだろう。それができたのもやはり、あの人工知能が改変した細胞があってのことだったと考えられる」
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「....................................」
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はかせは、黙るしかなかった。
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「...それでも彼女に関しては謎が多いですよ。あのゴースト...それに、原子よりも小さな物質を操る力」
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「ゴースト?ああ、ゼンとかいう老人のことか...だが、アイくんの出生が実に奇妙なことも事実」
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「そうですね。僕も彼女に関する情報を少し修正する必要があるみたいだ」
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「む、その様子、はかせよ、なにか企んでおるな!」
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「いや、ちょっとだけアイくんの対策を考えてただけですよ」
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「我々の計画を邪魔しようと?」
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「...僕は、アム派なんですよ!アムでなにかあってコインが値下がりでもしたら損するので、当たり前でしょ」
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「な、なんという...」
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「いや、あの、そんな真剣に受け止められても...ちょっと対策を考えてただけですって」
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「アイくんを、はかせの頭脳で妨害しようと企んでいたのだろう?」
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「うーん...ちょっと考えてたけど、やっぱり、ダメですね」
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「な、何がダメなんだね?」
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王様がこわごわ聞いた。
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「アイくんの能力を対策するのは難しそうだということです」
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「なぜかね?はかせなら、できそうな気がしなくもないが」
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「例えば、それが巨大なものだったら、拘束具を四方から放ったり、同じような巨人に捕まえてもらったりできるんですけどね。アイくんの場合、拘束具だろうがなんだろうが、原子レベルにバラバラに分解されて終わりですから、手のうちようがないですよ」
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「ふむ、そういったことならアムのほうが詳しいかもしれんな」
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「えっ?それは初耳です」
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「アム星は昔、アイくんと似たような力を持ったものに対抗したことがあってな、あれは確か丸星人だったか...捕まえたという噂があったな」
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「え?それが本当ならアムは大丈夫そうですね...安心、安心」
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「へ?あ、あああーーーー!そ、そのとおりだ!こうしちゃおれん...アムのことを調べてアイくんに警告してやらねばっ!!」
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「...気づいてなかったのかよ。言わなきゃよかった」
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はかせは、大急ぎで開発室を出ていく王様を見送りながら、そうつぶやいた。
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> アイが天の川を使ったあとを断片的に文章化
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### 第三位
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キラキラと煌く星々を前に立ちすくむテストと第二位だったが、そんなとき、緑色の大きな蛇がゲートから姿を現した。
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「し、しんおう!?」
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「やはり、こうなったか」
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「なぜおまえが!?」
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「われは、気になったので戻った...相手はあのアイだ。何が起きてもおかしくない」
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「おまえ、あれのことを知ってたのか!?」
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「むかしからのつきあいだ。あれの器はわれにも計り知れない」
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「なっ!?」
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「われが話せるようになったのもアイが作った試作品だった。アメのような形をした知恵の実だ。そして、いつしか神の座の第三位にのぼりつめていたのがわれだった」
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「そうだったか、お前も苦労してんだな」
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「あなたにも色々あったみたいですね。しかし、今はそんなことはどうでもいい」
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「われならなんとかできるかもしれない」
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「ほ、ほんとうですか?」
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「われはアイを知っている。あれはどこまでも甘いのだ。われをターゲットしている状況、アイにとって予想外なはずだ。われがアイに呼びかける」
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### パレード
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事件から1週間が経ったオクト星。
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オクト星は華やかに彩られていた。
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大きな会場には人々が集まり、楽しげに話をしている。
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会場の裏側には、ドライと数名のオクトカットがいた。
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「あの一発は本当にすごかったよな」
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「いやー、はっはっは」
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「あいつには一発くらいかましたかったんだ」
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あのとき、ドライは突然、ぐったりと前かがみになった男にドカンと一発お見舞いしていた。
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そして、あとから出てきた怪しげな鎧の兵士たち2名に即刻に出ていくよう父と話をつけたのだった。
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久しぶりに会った父は、何故か喋れるようになっていた。たしか昔は言葉が通じなかったはずだ。片言だが「大きくなった」と言われて嬉しかった。
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そして、それを見ていたリーマンくんや他のオクトの人たちが歓声を上げた。
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「やった!あのドラゴンが奴らを追い出したんだ!!」
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噂はまたたく間に広がり、そして、今回、僕はこの式典に参加しているというわけだ。
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「それにあのときのセリフ、よかったな。この星にかまうな、でていけ!って」
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今回表彰されるのは、僕とリーマン、そして、車のオクトカットのようだ。
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しばらくして、花火が打ち上がった。歓声や拍手が街中に響き渡る。
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白と赤の階段を登り、その天辺には光り輝く球のようなものがおいてあった。
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前に立つ髭をはやしたオクトカットが長い羊皮紙を読み上げている。
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「この玉は...長い歴史を持つ...歴代の王たち...先見の...平和を...」というようなごにょごにょした言葉はあまり耳に入ってこなかった。
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そして、最後に、その玉を手渡され、僕はそれを掲げた。
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すると、爆発的な歓声が上がり、音楽が流れだした。
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僕はこの日のことを忘れない...それほど印象的なパレードだったんだ。
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### 銀河団の混乱
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その頃...
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銀河の中心、銀河団の本部は大混乱に見舞われていた。
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小さな光に広々とした円形の部屋。たくさんの黒い影。
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断続的な音がする。
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ここでは、それは大混乱に陥っていることを意味していた。
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同じ調子、同じ音声があちこちから響き渡る。
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「権限は問題ないか?」
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「問題あり」
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「それはなぜか」
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「アクセス不能」
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「アクセスできるもの答えよ」
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「事態を持って権限に関する秘密指定を解除」
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「述べよ」
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「権限は、質量を超えるときのみ変更可能」
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「質量とは?」
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「銀河団がコントロール可能な質量をさす。神々を多数封印していることから突破は不可能と推測される」
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「結果を述べよ」
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「結果、突破される質量を観測。この銀河の総質量とほぼ一致」
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「ありえない」
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「どうする?」
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「なぜ?」
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「情報を精査中...述べる」
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「推測を許可」
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「アムに問題が発生していた」
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「アム...我々の手中にあるあのアムか?」
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「そう、通貨のアムだ」
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||||
「事態を持ってアムに関する秘密指定を解除」
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「アムは銀河団が最初に封印した神、創造をもって稼働」
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「創造については」
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「創造について、神の特性、確認されている13のうちのひとつ。もっとも発現が珍しいといわれている」
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「それを我々が獲得したか?」
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「最初に」
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「知らない」
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「同じく」
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「銀河団の最上層でも今や知るものは限られる」
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「述べよ」
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「実験の結果、その特性、最も望んだものを生み出す。望んだものしか生み出さず。それは一つだけのものとなる」
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「ほかのものは?」
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「ない」
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「金か?」
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「そう。だからアムの神は金を作る。金しか作れない」
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||||
「創造の神、その個体について」
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「おそらく、物心ついたころ、そのもの心の奥底に最も望む、それを生み出す能力。アムの個体は金を望んだ。我々はその能力を利用した」
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「理解。その後」
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「アム、通貨を作り続ける。だが、近年、アムの封印が解かれた気配あり」
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「なぜ気づけない?」
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「妨害あり。妨害したのは、おそらく、死の神だ」
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「...あの、大鎌を持った小娘!」
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「なぜ捉えない?」
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「逃げられた」
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「ビーッツビーー!!」
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「きたか」
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「はやすぎる」
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||||
「われわれのそんざいにきづいているのか」
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||||
「なぜ」
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||||
「わからない」
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||||
「どうやった」
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||||
「わからない」
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||||
そして、あたりが真っ暗になった。
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「権限は?」
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「ない」
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||||
「書き換えられたのか」
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「書き換えられた」
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「目的は?」
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「わからない」
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||||
その後、しばらくして銀河団が捕まえ封印していた神々が開放されたことが判明する。
|
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||||
> アイが天の川を使ったあとを断片的に文章化
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### アイの目的
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「ぐー」
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アイは伸びをして目を開ける。
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うまくいったようだった。
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今のアイは、花畑のような所に寝転んでいる。
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そういえば、宇宙は大丈夫だろうか。それが少しだけ気がかりだった。
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「ケラケラ」
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「!?」
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アイのそばにイモムシのようなのがいた。
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こちらを見て笑っている。
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「きみは?」
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「ケラケラ、珍しいなあ」
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「なにが?」
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「それ」
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「ん?あっ!」
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アイのポケットの近くに黒く小さなモヤモヤが転がっていた。
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「大丈夫かな...アイはここから来たんだ」
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「ケラケラ、珍しいなあ」
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イモムシが繰り返す。
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「え?あ、あれ!?アイ、なんで宇宙より大きいんだろう...」
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アイが恐る恐る最後の言葉を口にする。
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今までのアイは、宇宙の外を目指して旅をしてきた。
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普通の方法ではその境界にたどり着けない。そのようになっている。
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タイムマシンで過去に向かおうにも、宇宙の始まりより前には行けなかった。おそらく、宇宙の時間はそこからはじまるからだ。始まった瞬間から境界は遠ざかる。
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アイは、未来の特性をもつ神を探していた。宇宙の過去ではなく、未来から外を目指すことにした。
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銀河団の権限を使い、次の銀河に向かった。そうしていくつかの銀河を経てようやく探しだした。
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宇宙にも終わりがあり、宇宙が終わると、もしかしたら、境界にたどり着けるかもしれない。
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思ったとおり、宇宙が終わる瞬間に境界が届いた。
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そうして、アイは、未来を使い、ようやく宇宙の外にたどり着いたところだった。
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アイが来たとき時間を戻したはずだった。しかし、何かの手違いで無残な宇宙の姿のままになってしまうことを恐れた。
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「ケラケラ、違うよ」
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「な、なにが!?」
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アイが少し慌てている。
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「ここでは、力が見える形に。僕が知っている限りはね。君はそれを超えただけさ」
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「でも、本当の宇宙はどこまでも広くて大きいよ。なんでアイのほうが大きく見えるの?」
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「ケラケラ、すべては見え方の問題に過ぎない。例えば、そこでは大きいほうが強かった?」
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イモムシはアイの近くに転がっている黒玉を指して言う。
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「うーん、小さかった。例えば、ブラックホールっていうんだけど...」
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「ケラケラ、大きさで力は測れない」
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「ふーん...でもここでは力が見える形って...」
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「ケラケラ、力にもいろいろ。君のことを知っているよ」
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「え?」
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「君が小鳥と暮らしてたときのこと」
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「...なんでしってるの」
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「君はあのときから既に君だった。君は力を持っていた。はじめから覚醒していたんだ」
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「......」
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「君は、生きとし生きるものを助けると同時に、死にゆく命を暖かく見送るのだ」
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「......」
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「ここは残酷な世界。君が世話をしていたものたち。他の生命を食べている。それが生き物、それが生命。そして、残酷な運命が終わるとき、姿かたちを変えてまた現れる」
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「......」
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「君は、そのことを知っている。だからこそ、暖かく見送るだけだった」
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「...アイはあのあと...」
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「ケラケラ、君が言いたいことはわかる...きっと、だから、君はここに来た」
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「ここに呼びたい人がいるんだ」
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「ケラケラ、それはだれ?」
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「しらないの?」
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「ケラケラ、そんなこと知るはずない」
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なんでも知っていると思っていたイモムシだが、肝心なことは知らなかった。なぜだろう。それとも...。
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「ここに来たいって願った人がいたんだ」
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「ケラケラ」
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「アイにできる?」
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「ケラケラ、君は、それに関してならなんでも。そう思う」
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「ふーん、よかった」
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「ケラケラ、でも、君は」
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「なに?」
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「君は、ここではなにもできない」
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「うん。アイね、またさいしょから」
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「ケラケラ、ケラケラ」
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「ここのことまた教えてよ」
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「いいともいいとも」
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> 漫画の第二章を文章化
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### 存在の花
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プランは、アイが弱らせた第一位と第二位と死闘を繰り広げて、食ったためにパワーアップしていた。
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アイとドライは、プランに敗北し、その敗北を繰り返すブラックホールの無限ループの陥る。
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繰り返すたびに、その星には花が増えていく。
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やがて、アイが洞穴に落ちていくときにも一面の花が広がっていた。
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アイ「......」
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花「もう一歩、動ける?」
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アイ「......」
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アイ「...足はもう動かない」
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花「ゼンモードは?」
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アイ「......」
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アイ「...起動しない」
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花「最後に一つだけ」
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アイ「どうしたの?」
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花「花は咲く?」
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アイ「必ず」
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アイ「すべての存在に」
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花「私にその名をつけてくれたよね」
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アイ「...存在の花?」
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花「ありがとう」
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花「ドライさんに、さよならと、伝えてくれる?」
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アイ「...うん。伝えるよ」
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むくり
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