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2024-04-21 12:11:54 +09:00

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+++ date = "2022-07-07" title = "龍の記憶" slug = "07" type = "novel" tags = ["novel"] +++

漫画の第二章にあたる部分を文章化

アイがいない

その後もオクトカットの人が僕たちの星にたびたび遊びに来るようになった。

ドラゴンのドライとオクトカット、タイプリーマンは次第に仲良しになり、友だちになった。

アイも最初は一緒にいたんだけど、ある日、忽然と姿を消した。

「アイは、たまにいなくなるんだよなあ」

「ええ、それは大変じゃないか。探さないと」

「あー、ま、まあ、そのうち帰ってくるでしょ。前もそうだったし...」

「...そんな猫みたいな。アイくんの昔はどうだったの?」

「うーん、僕が生まれた頃からアイはいたんだ。風変わりでね、近所のお姉さんというか、遊び仲間みたいな感じだったかな」

「(...あれ?そんな昔から人間とドラゴンが一緒にいるというのは、なにかおかしくないか)」

「それで当時の地球では動物実験がまだあったんだけど、昔、アイが全部引き取ることにしたらしい。だから、アイの家はネズミだらけだったなあ。風変わりはそのことさ」

「えっ!それはまずいんじゃないか...」

「でしょ。ネズミ共がチョロチョロとうっとうしいったらありゃしない!」

「いや、そうじゃなくて、宇宙には色んな考えを持ったやつらがいてね。中には特別な力を持った個体も存在するらしい」

「特別な力?」

「ああ、星の力さ...」

「はははっ、星!話が大げさすぎるよ」

「まあ、僕も迷信のたぐいだと見ているけど、僕たちオクトカットは王の記憶を受け継ぐんだ。それがタイプ王の役割さ」

「記憶を受け継ぐってどういう感じなの?」

「王が死ねば、その記憶はすべて僕たちに共有されてきた。ただし、7代目だけは例外だったなあ。今は13代目だよ」

「んその7代目は共有されなかったの

「そうだよ。そんなことは僕たち人類(オクトカット)にとって初めてのことだった。どうしてそんな事が起こったのか未だにわからない」

「...ふーん」

「まあ、そのような特性から、僕たちは色々なことを知ってる。その中には、ありえないようなことがあるんだ」

「それがなんで地球がまずいことにつながるの?」

「それは、野蛮な星を滅ぼそうと考える危険なやつもいるからだよ。そいつらに狙われたら最後...」

「いやいや、星を滅ぼすって...それこそ野蛮じゃないの」

「彼らはそんなことは気にもしない。ルールはないし、縛られるようなやつらじゃない。君たちの言葉でいうと...神と呼ばれている」

「え、神?...ああ、聞いたことある。胡散臭いあれのことだね。もうとっくの昔にそういう考えは廃れてるけど」

「うーん、認識の齟齬があるかもしれない。宇宙で呼ばれている神というのは、単に星の力を宿した個体、個人のことを指す。それ以上でもそれ以下でもないし、思想も全く関係ないんだ」

「宇宙では特殊な力を持ったやつらがいて、そういう奴らが自由に振る舞い、とても危険だ」

「...それは神じゃないよ」

「まあね。別の呼び方もあって、銀河の中心星団あたりでは、確か宇宙獣とかって呼ばれてた気がする。危険だから捕まえて封印される対象さ。まあ、僕たちには無理だけど」

「まさに宇宙って感じの話だね。わけがわからないよ」

「ところで神様を捕まえ檻に閉じ込めるってのは、本当に大丈夫なの?」

「上には上がいる。たとえ星の力を持ってしても銀河星団には敵わない。神様も星団からは逃げ回ってるって噂だ」

「ふーん、宇宙は広いんだねえ」

「ああ、そういえば、アイくんが行方不明って話だったね。本当に大丈夫かい?」

「大丈夫でしょう。昔もいなくなったことがあるんだ」

「...そういえば、一緒に住んでたネズミたちもその時から見てないなあ。でもそれから100年後くらいには何事もなかったように帰ってきてたよ」

「おおう!?...それはそれは。アイくんも人間の中では相当に図太いほうだったのか」

「何してたのと聞いても、何も答えない」

「まあ、アイくんといえば、いつもぼんやりした感じだね。おそらく、どこかでぼーっとしてたら時間が経ってたんじゃないかい?」

「うん、だといいけど(アイは昔から何しでかすかわからないからなあ。不安だ...)」

オクトカットの危機

アイがいなくなってから数週間、次はオクトカットの人が遊びに来なくなった。

「うわーん!一体、何が起こってるんだっ!リーマンもいなくなっちゃったぞ」

「.........」

「そうだ!たまにはこっちから遊びに行けばいいんだ」

ドライは早速、家の中に入り、アイが持っている道具の中から地図のようなものを探しだした。

「よし、出発だ!」

そのころ、オクト星ではとんでもないことが起こっていた。

「ばたばた、どたどた」

「休暇を終えて帰ってきたけど、なんか慌ただしいな...」

「なにかあったんですか?」

「え?お、おい、知らないのかい?いまとんでもないことになってるんだ」

「とんでもないこと?」

「ああ、うちでやばい取引があったらしい」

「それのどこが問題なの。なんかの間違いでしょ」

「いや、調べたんだが間違いではなかったんだ。旅行客がこの星で奴隷売買だ」

「それは確かによくないけど、犯人を引き渡せばいいのでは」

「...いや、相手には通じないだろうな。いや、通じなかった。だからオクト星そのものが攻撃されてるんだ。そういう相手に当たってしまった」

「なんだそれは、理不尽だなあ!?」

「でもうちの技術力なら問題ないでしょ。返り討ちだ!」

「...無理だった。相手が判明したときには、もう手遅れさ...オクトカットが全滅するのも時間の問題だ」

「ま、まさか!?相手というのは、もしや"あれ"なのか!?」

「そうだ。"あれ"だった。どうやら実在したようだ。伝承(オクトカット間では王の記憶のこと)にあるとおりな」

「だけど、オクトカットの兵器も進化してきた。対抗できるはずだ!」

「やろうとしたさ!何も知らないバカが!!」

「!!」

同僚がここまでの怒りを見せるのは初めてだ。だからこそ、この星の事態がどれほど深刻なのか、今更だが理解したのだった。

「それで?」

「...初手で星全体を包み込むほどの強烈な電磁波を浴びせられたよ。最新兵器はそれでおじゃんさ。今は古代兵器で抵抗しているが...長くは持たないだろう。あれは、俺たちを弄び皆殺しにする気だ」

「そ、そんな...」

言葉が出なかった。電磁波って、それだけで僕たちの兵器が使えなくなるのはおかしい。

「電磁波の対策もなされているはずだったけど、一体なぜ、なにがあったの?」

「今回の"あれ"は強奪の特性を持つ個体らしい。宇宙で13種あるうちの一つさ」

「強奪って、奪い取って自分のものにできるってこと?」

「報告によると、あれはこう言ったらしい。長年かけて太陽を奪い取ったと」

「...た、太陽って。神の力をもってすると、そんなことまでできるのか!?」

「たしかにM15Kにある太陽が忽然と消えたことがあった。いまやあれは太陽の質量を持つ。我々はそんな相手と戦っているんだ」

「なぜ一発で終わりにしないの?」

「それは...あれにも力を使うことのデメリットがあるのか、あるいは楽しんでいるだけなのか。ただ一つ言えることは、最初、我々を襲ったのは、太陽フレアでほぼ間違いない。観測機が間近に捉えていた」

「う!?そ、それは...」

それは、僕たちの兵器が一瞬で壊滅させられるほどの攻撃だ。どうしようもない。

「...そいつの名前は?」

「プランというらしい。伝承にはないが7代目のときそれと関係があったという噂だ」

「ああ、7代目だけは伝承の例外だった」

ドライ到着

「どかーん!どーん...どどどど、ばーん!!」

「着陸する前から煙だらけだったけど、地上はもっとすごいことになってるな」

「本当にこんなところに住んでるのかリーマンくんは...」

恐る恐る歩きながらあたりを見回すドライ。見渡す限り煙と瓦礫の山だった。

「リーマンくんはもっときれいな街に住んでいるイメージだったなあ。まさかこんな貧しいところで暮らしていたなんて...想像もしていなかったよ」

「ガラッ...」

「うわわっ!な、なんだ!?」

「ああ、オクトカットの人が倒れてるだけか。ま、まさかリーマンくんじゃないよね...」

そこら中、倒れている人だらけだったので、この星、尋常じゃないとドライは思った。

「...これがこの星の日常なんだね、きっと」

「うーん、これじゃあ埒が明かない。上から探そう。番号は聞いてるから見つかるはずだ」

しばらく歩いていたドライだったが、上空に飛び上がることにした。

「どびゅーん...ばさっ、ばさっ」

「あっちだ!ん?向こうの空でなんか光ってる」

「わっ!光が地上に降り注いだぞ!!」

「..............」

「あれが攻撃してるのか!?人間みたいだ」

「..............」

それに近づくドライ。そして....

「おいっ!なにしてんだ、お前!!」

「うん?ああ、オクトカットのやつら、今度はドラゴンを召喚か?」

それは何やら変な機械を身に付けた小さな男だった。

ドライvsプラン

「あそこには人がいるんだぞ!何考えてる?」

「おおう、言うねえ、ただのドラゴン風情が。俺様はただ正義を執行しているだけだぜ。この星に住むゴミムシが俺様の気に入らない不実を働きやがったんでな...この星のすべてを"強奪"する」

「ご、ごうだつ!?それは、ただの強盗だ!チンピラじゃないか」

「ふふふ、お前がいう"強奪"と俺様が行う"強奪"は少し違うものでな...貴様程度には理解できまい」

「はあ?やってることは同じじゃないのか?」

「俺様のルールは一つだけ。悪いやつから奪う、それだけだ。奪ったものは俺様の質量になる」

「し、しつりょう?なんだそれ」

「質量、神である俺様の力、そのもの」

「神だって!?そういうば最近、そんな話を聞いたような...」

「どごっ!」

「ぐ、ぐふっ...ぐああああっ...」

な、殴られた。人間のパワーじゃない!

「他の生物にとってドラゴンは最強の生物...だが、俺様にとってただのアリだ」

「それに...これを見よ、ドラゴン」

「な、なんだ!?そ、それは...!?」

彼が手に持つ禍々しい光は、あまりの巨大さを感じさせるものだった。その小さな光にドライは絶望する。この星すべてを飲み込んでもまだ足りないと言わんばかりの轟音が空間の奥底に響いている。一瞬だった。この男は、一瞬でこのあたり一帯の星々を焼き尽くすほどのパワーを持っている。ドライは直感した。

「あああ...」

「そう、これが俺様が奪ったもので一番大きい。使えばこの星も一瞬だ」

「...だが、俺様はそんなつまらないことはしない。抵抗するなら、そのレベルに合わせてやろう。しかし、最後には」

「全滅させるってか?そんなこと僕が許さない!」

ドライは恐怖から立ち直った。どこかに勝機があるはずだ。オクトカットの人たちも抵抗している。相手が奪うものなら、あの光は奪い返せるかもしれない...。

「どごっ!ぼこ!ばこ!」

...全然歯が立たない。手が出ない。ダメージすら与えられない。

そして、落ちていくドライ。笑いながら見下ろす男の顔がチラと見えたが、やがて黒い煙で視界がなくなった。

どでかい光の玉がこちらに向かってくる。どうやら男が落ちていく僕に向かって放ったようだ。容赦がない。

そんなとき、周りから声々が聞こえ、それが徐々に大きくなった。

「絶対に助け出せ!リーマンのところに連れて行くんだっ!」

「砲撃開始!」

上空では男が一斉に地上からの集中砲火を浴びせられていた。

爆風がドライの顔をかすめる。

「どっかーーーーーー!」

光の玉はドライに当たらず真上で弾け飛んでいた。

「うっ...」

ドライはなんとか不時着するが、そこで倒れた。起き上がる力が出ない。

「大丈夫か、今引き上げる!」

ドライの周りに大勢のオクトカットが群がり、ドライを乗せた車体が急ハンドルを切りながら走り出した。力なく振り向くと残りの兵士たちは上に向けて銃を撃ち続けていた。

「ここだ!下がるぞ」

ドライと車の人は地下に潜っていくようだ。あたりが暗くなる。わずかな隙間から人々が爆発で消し飛んでいく様が少し見えた。

「そ、そんな...」

時を同じくして上空では

「ちっ!オクトカット共、まだそのへんにいたのか」

プランは舌打ちをし、めんどくさそうに手を振った。

すると、地上一体が一瞬で吹き飛ぶ。

7代目

「さあ、ついたぞ!すまんな、今はこんなとこしかねえんだ」

「ここはど...こなの?」

上が見えないほど広い天井にだだっ広い大理石が敷き詰められ、巨大な柱がいくつも見える。ポツポツとガラスケージが点在している、そんな部屋、というより広場だった。地下に設置されていて、普段は誰も来ないのではないかというほどのホコリが蓄積されていた。

「ここは!ああ、ここは、歴史の広場だねえ。俺もここに来たのは初めてだ!王のなんやらが展示されとるとか聞いとる」

「..........」

ドライは返事をしたかったが疲れて声が出ない。

「それよりおれは、表が心配だ。ちょっと見てくる」

「...え!?ちょ、ちょっと、ま...」

待て、行くな、危ないぞ!と言うつもりだったが、車のオクトカットはすぐリフトに乗り行ってしまった。

「彼はああいう人なんだ。気にしないで」

「!!?」

背後から声がしたような気がする。振り返ってみるとそこには一人のオクトカットがいた。

「きみは!リーマンくん!やっと会えた...い、いたたた...」

「まさか君が来るとは思ってなかったよ。巻き込んでしまってすまない。今からでも遅くない、君は逃げろ」

「...リーマンくんはどうするの」

「僕は...僕たちは、あいつに狙われた時点で終わってる」

「一緒に逃げよう。逃げたほうがいい。まだ少しでも生き残ってるなら、可能性があるなら、みんな逃げたほうがいい。あいつは...どうしようもない...と思う」

「君の、ドラゴンの力を持ってしても、やっぱりだめなのか?」

「...悔しいけど、あれには恐ろしい力がある。それを見た気がした。僕はおろか、誰一人として敵わない」

「そういえば、アイくんは見つかった?」

「いやいやいや、僕とアイは互角程度。アイもあいつには絶対に勝てない。まだ見つかってないけど」

「はは...ドラゴンと互角程度って笑える冗句だけど、彼女まで巻き込まないで済んだのは良かったかな。もしかしたら危険を察知してどこかに隠れたかもしれないね」

「うーん、どうだろう...こんな大変なときに、一体何してるんだ、あいつ!」

「でもアイくんがいたところでどうにかなる話じゃない」

「...それもそうだ。それより、あとどれくらいの人が残ってるの?僕が乗ってきた宇宙船に入るかもしれない」

「残っているのは、僕を含めて、極めて少数。ほぼ全滅させられているときに君が来たからね...」

「ま、まさかぼくを助けるために犠牲になった人たちも...」

「うん...そうだけど、でも、気にしなくていい。僕が生き残ったのも君との接触があるからだった。ドラゴンとの接点がね。それで生き残った者たちで作戦は計画され、実行された。ドラゴンの力を借りればなんとかなるかもしれないと」

「...ごめん、なにもできなかった」

「いや、あやまらなくても...!!」

「たった今、残念な知らせだ。情報によると、司令区域にいるオクトカットは僕たち以外、全滅。残るは周辺区域にポツポツといる人達だけになった。オクトカットは現時点をもってほぼ全滅したといっていい。計算では今の人数で復興は不可能。僕たちオクトカットは...これでおわりだ」

「そ、そんな...」

「ふっふっふ...いやいや、まだそうとは限らんよ」

「だ、だれだ!?」

「あれ?誰もいない。なんか聞こえなかった?」

「聞こえた」

「どこだ!?ここに僕以外のオクトカットはいないはずだぞ」

「確かにオクトの人の声だった」

「うん」

「こっちじゃよ、こっち、こっち!」

「!!?」

そこには王冠のようなものをかぶったオクトカットがうっすらと佇んでいた。

「あ、あなたは13代目なぜここに

「えっ!?王様なの」

「ドライくんにも話していないトップシークレットだったけど、13代目だけはあるところに避難している...はずだった」

「いやいや、わしは13代目じゃないぞ。7代目じゃ

「な、7代目そ、そんな馬鹿な7代目はすでになくなっている」

「まあ、当たらずとも遠からず。わしは、預言者でオクトカットの王。そして、唯一の例外、紛れもない7代目じゃ」

「確かにあなたの記憶は知りませんが、でも、あなたがここにいるってことは死んでいないってことで、継承が起こらないのにもうなずけますが...しかし」

「そう、8代目がいる以上、わしは死んでいないとおかしい、と言いたいのじゃろう」

「.........」

「このことはオクトカットの最大の秘密じゃったのう」

「わしはのう、この時を待っておったのじゃ。この存在を賭けるときをな...」

「なぜですか?一体どうやったのです?あなたが生きていたなんて」

「...それは、はずれじゃ。わしは生きてはおらん」

「え!そ、そんな...まさか立体映像!?」

「いやいや、ちゃんとあんたと話をしとるじゃろ...」

「ふむ...わかりませんね」

「もしかして、この人、生きてもいないし、死んでもいないんじゃない?」

ドライが言った。

「おおう!正解!!まさかわしの子孫よりドラゴンのほうが賢くなっとるとはのう、世も奇想天外じゃ!あの子のように」

「あの子?」

ドラゴンが首を傾げた。

「そう、わしの最後の仕事は2つある。一つはオクトカットを生き返らせること、すべてを元通りにすることじゃ一回だけじゃがのう」

「え、ええええええ!?そんなことできるんですか!?」

「まあのう。わしゃすごいんじゃ」

「そして2つ目...わしが見てきた記憶を君たちに継承することじゃ!」

「.........」

「...今更、それが重要なのでしょうか?」

「ぽこん!」

リーマンが王に叩かれたように見えた。が、透き通って地面を叩いていた。

「こっちのほうが重要じゃわい!わしの記憶だけ継承できないんじゃからのう。わしの存在が消えても、おそらく継承は発動しないじゃろう」

「だから、君たちにわしの記憶のなかで最も重要なものを見せてやることにするぞい!」

「オクトカットはそういうの得意ですからね」

「うむ。他人の記憶を読み取るのも得意としておる。そして、今回、わしが入り込んだものの意識があの子と偶然にもつながったことがあったのは幸運じゃった。あの子自身にはわしでさえ入れなんだからのう」

「話も長くなった!では記憶の旅を始めようか...ほいっ!!」

「う、うわああああっ....」

「.........」

龍の記憶

「こ、ここは?」

「ここはのう。あるドラゴンの記憶じゃ。といっても、ドラゴンがあるものの意識と偶然つながったときに見た夢の中...」

「複雑ですね...もはやわけがわからない」

「夢の中って、そんなもの見せられてなんの意味があるの?」とドライが言った。

「当時、あの子と一緒に暮らしておったあるドラゴンは、そこで、寝ているとき、あの子の意識に偶然迷い込んだことがあったのじゃ。これは、その時の記憶になる」

「あれ?前から誰かが歩いてくるよ」

「アイじゃん。いままでどこにいたんだよ!」

「あ、あれ?」

「これは記憶の中じゃぞ。手出しはできん」

「じゃあこれは...昔のアイ?」

「...いや、違う」

「じゃあなにさ、これは昔の記憶でしょ」

「わしも本当のことはわからん。最後までたどり着かなかったからのう。しかし、今から見せるもので大体の推測はできるはずじゃ」

「なにを?」

「本来の...姿をのう」

「本来の姿?」

アイは1匹の鳥と暮らしていた。鳥は2匹に増え、子供を生んだ。鳥は4匹になった。

あるとき、お父さんとお母さん、そして子の鳥の3匹が帰ってこなかった。

残るひな鳥とアイは探しに出た。

そこで、帰ってこなかった3匹が引き裂かれ、地面に落ちているのが見つかった。

ひな鳥は飛び出して、残骸になったお父さんとお母さんのもとに行き、つついたり、こえをだしたり、よりそったりした。しかし、反応はなかった。

そこに一人の老婆が現れ、アイを見つけて急ぎ足で歩いてきた。

「まさか、お前がけしかけたんじゃないだろうね?私の畑を食い荒らしてただじゃおかないよ!今日もいくつか始末してやった」

「......」

「ちょ!こ、このおばあさん正気なの?アイにぶっとばされるよ...」

「いや、ぶっとばされないじゃろう...なぜなら」

「なぜなら、そんな力、アイくんにはないから、ですよね」

リーマンが言葉を引き継いだ。

「う、うむ。...そうじゃ。この時のアイくんはなんの力も持たない」

「え、ええ...そ、そんなばかな。アイは、ああ見えて割と怪力なんだ。このおばあさんくらいはふっとぶはずだよ」

「アイくんの身体能力、それは、力に目覚めたときにそれを使って修行した成果なのじゃよ。だから、あの力に目覚めない限りふっとばすことはできんよ」

「でも、でも、この人間、こんなことしたら捕まるぞ」

「それも違う。まあ、いずれわかることじゃ。先に進もうかのう」

「...それで最後の鳥はどうなったの?」

「優しいドラゴンじゃのう。情が移ったのかい?アイくんの情が」

「そんなんじゃない!ただ、ちょっと気になっただけだよ。アイが怒らないかって」

「彼女はその後、特に何をするでもなかったよ。最後のひな鳥は、その後、あの場から離れず死んでおった...」

「だれがやったの?」

「わからん。アイくんもそれは見ていない。最後の子が一緒に亡くなっていたところを見ただけじゃ」

「そう...」

「勘違いしてはならん。老婆は悪者ではないし、人間もじゃ。老婆は、ただ自分の畑を守ろうとした、食料を守ろうとした、自分の居場所を守ろうとした、それだけなんじゃ。そのことは、アイくんもわかっていたのじゃろう。人間であれ他の動物であれ、生き物である限り、みな自分が生き残ることで精一杯なんじゃ。とくにこの時代はそうじゃった」

「......」

「時は過ぎ、それからアイくんは猫と暮らしておった」

「またか!」

「ふぉっふぉっふぉ!とはいえ、これから起こることはわしにとってもぞっとするホラーじゃったぞい...」

「今回は、この場面だけ見せることにしよう」

「これは?」

「時代は、人間の軍隊が支配する。その数も争いで減り、やがて、残虐な思想を持った者たちが生き残った。そんな中、アイくんはなぜか巻き込まれず、人類最後のその時まで普通に猫と暮らしとったんじゃから、驚きじゃ」

「でも、猫がやられてない?」

「そう、最終的に人間の手によって遊び半分で惨殺されていた。アイくんもそやつらに捕まり危険じゃった。しかし、アイくんは微動だにせず、ただ、見ておった...ように見える」

「...うん、そんな感じだね。でも、この状況、アイもやばいよ」

「そう、次はアイくんが猫のようになる番じゃった。そのとき...」

「あれ?誰か来るぞ」

「お主たちもよく知っておるものが来るんじゃよ」

「あ!あああっ!!こ、こいつは!?」

「...今、オクト星を滅ぼしてるあいつだ!」

「ばたばたばたっ」

「えっ!?い、一体何が起こっているんだ?」

次々と屈強な男たちが倒れていく。見渡す限りアイしか立っていない。

「ふん!俺様の実験、こりゃ成功のようだ...うん?お前、地球人か?」

ドライは「何が起こったの?」と叫んだ。

しかし、リーマンは「あいつが何をしようと驚くべきことじゃないね」と冷たく言い放った。

「続きはプラン様の言葉を聞くのじゃ...」

「......」

「まさか地球人の中で生き残るやつがいるとな。俺様の力と、このコインで簡単に全滅だと思ったんだが」

プランは、金色に輝くコインをピンと跳ね飛ばしながらそういった。

「......」

「うん?これはなにか知りたい顔だな。特別に教えてやろう。お前のやつも確認したいしな」

「これは、俺様がこの星の人間どもに一斉に配ったものさ。こいつは持ち主の心を読み取る。で、プラス、マイナスでるわけだ。良い心にはプラスを悪い心にはマイナスを配分する。宇宙で流行ってる一般通貨さ」

「で、こいつの性質を利用し、マイナスのやつに俺の力を使った。結果、この通りさ」

兵士の死体を蹴飛ばしながらプランが言った。

「......」

「それにしても...お前、なにか妙だな。どれどれ、お前も受け取ってるはずだからコイン、見せてみろよ。意識すれば誰でも表に出せるのさ。プラスなのはわかってる。数字があんだろ?」

「......」

アイは手からうっすらと金色のコインを取り出した。たしかに数字が刻まれているようだ。

「!!!????」

「は!?お、おい!こ、これは一体...!?」

「あ、止まった。王様、動画が止まっちゃいました。続きを再生してください」

「...つづきはない。このあと、クスクスという笑い声が聞こえ、宙からアイくんが降りてきたのじゃ」

「え?どういうことですか?」

「うーむ、その時点でわしの領域に入られたようじゃ。それから少し言葉をかわし、わしはアイくんの手を惹かれて記憶から離脱した」

「...ま、まさかそんなことが」

「アイはなんて言ったの?」

「いや...な、なにも。ただ、"こんなのみても面白くないよ、いこう"って言っとった」

「ふーん...」

「それで、なにかわかったことはあるかいのう」

「うーん、アイとあいつが知り合いだったなんてねってことくらいかな。あと、あいつ、なんであんな驚いたんだろう」

「アイくんとプラン様は、実は前に会うている。しかし、それとは別にプラン様にはこの記憶は、おそらくないじゃろう」

「なんで?」

「...それは今からわしの推測を話すことにする」

「まず、ドライくんは気になったことは本当にそれだけかの?」

「...いや、でも、ちょっと気になったってくらいかな」

「思うように述べてみるがいい」

「人間って僕の時代には、ああいうのは少なかったので、ちょっと驚いたんだ。いつも温和でさ。事件が起こってもまず人間は疑われないよ。疑われるとしたら、僕たち肉食獣のほうさ。大体そうだった」

「うむ、いいところをついておる。わしも不思議に思っておったんじゃ。この記憶は時代でいうと、わしが地球に行った当時のものじゃった。だが、どれを見ても、これも、これも、これも!」

「...あれ?やっぱり、人間しか出てこなかったよね。僕も気になってたんだ」

「わしが行ったときたしか大統領は犬じゃったのう。それなのに...」

「それに人間はプランに全滅させられたみたいな話じゃなかった?それから少しずつ増えていったのかな」

「アイくんに変わったところはなかったかのう?突然いなくなったりとか」

「ああ、最近もいないし、昔もいなくなったことがあったよ。ネズミと一緒に住んでたんだけど、それも全部さ」

「...アイくんはおそらく、そのときに過去に向かったのじゃ、力を使ってのう」

「え!?か、過去にって...そんなばかな...」

「アイくんが過去に行ったとして、何をしに行ったのでしょう」

「おそらく、アイくんは解決法を見つけたんじゃろう。だから、あれほどの長い年月をかけ実験していたのじゃ」

「たしかにアイは色々作るけど、でも...」

「アイくんは何を作っていたんですか?」

「アイくんは...知恵の木の実(知恵の実)、そのたぐいのものをずっと作っておったとわしは確信しておる。そして、それが実行に移され、地球の未来が変わったのだと...」

「そ、そんな、ことは、ありえない」

「アイにそんな力はないよ」

「...いや、実はある。アイくんは、あのとき、あの瞬間、力に目覚めたのだと、わしはこの記憶をみてわかったんじゃ...」

「当時、わしらオクトカットは、自らの野心のため、地球を侵攻しようとしていた。プラン様がやめたので絶好のチャンスだと思っておった」

「その理由は、神の誕生、そして、神の中でもまれの特性を持つ"創造"という力を目覚めさせ、利用しようという魂胆じゃった。噂では、神の器を持つものがその星で唯一になったとき力に目覚めるとあった。だから、野蛮な地球人をその状態に無理やりもっていこうとした」

「な、なんだってー!!」

「そ、そんなむちゃな...」

「...じゃが、阻止されたよ、アイくんに。そして、そのものなぜか一人にならずとも力を宿していた。不思議じゃった。星のエネルギーは星に住むすべての生命に平等に降り注ぐ。分散されているにもかかわらずアイくんの力は異常じゃった。一つの個体に集中させないと実現しない量じゃった。しかし、違った。彼女はプラン様と遭遇し、その行いによって、星の力に目覚めた。その瞬間、なにかが起こった」

「その後のことは、ほとんど確実に予想できることじゃ。アイくんは過去に行き、動物たちに知恵の実を与え、そして、帰ってきた。だから今の地球には色なものが暮らしておるんじゃ。それによってプラン様の侵攻も回避した。気が変わった本人曰く"あいつらはまだちょっとだけ見込みがありそうだ"ということじゃった」

「......」

「...なかなか面白い推測だけど、でも、あのアイがそんな事するとは思えないなあ...あのアイだよ」

「気持ちはわかるがのう。しかし、たくさんのものの記憶を探ってきた、これがわしの結論じゃ」

「...さて、残された時間もこの星には少ない。わしがすべてのオクトカットを生き返らせたあとは君たちの働きにかかっておる!一度だけしかもとに戻せぬぞ。これをやったら、わしは消える!」

「え!?そ、そんな...」

「...やはり、そうでしたか」

「心配しなくてもいいのじゃ。わしはこの仕事を果たせることを待ち望んでおった。預言者じゃからのう」

「そ、そういえば、この後のことって、わかったりします?」

「いや、わからん。わしが見たのはここまでじゃ」

「でも人を生き返らせるなんて、すごすぎるよ。あなたはすごい!」

「ありがとう、ドライくん。ただ、生き返らせるといったが、実はちょっと違うんじゃ。時間を戻すという方が正確かのう。時間を戻し、因果を修正する」

「...そういえば、7代目、何か最後に言いかけてませんでした

「あ、いや、ああ、そうそう。アイくんはこの星にいたとき、いろんな実験をやってのう。例えば、自然に意識を芽生えさせるようなそんなことをやっとったのう」

「あははははっ!やっぱりアイはただのばかだ。自然にそんな意識なんてあるわけないのに」

「うむ。実験は当然ながら失敗じゃ。アイくんは空中に何やらウィルスのようなものをまいていたが、なにもおこらず。それを見ていたわしも笑いそうになったわい」

「......」

「それでは、7代目、私達は上に向かいます。あとを頼みます」

「...うむ、元気でのう。わしもこの星の繁栄を願っておるよ」

ドライとリーマンは上のリフトに乗りこんだ。

「さいごに言おうとしたんじゃが、言えなかったことがある。ただ、わしとあの子、二人だけしか知らない思い出もいいものじゃと思ってしもうた」

あのとき...

「クスクス...」

「だ、だれじゃ!?この場所に他のものは入れるはずが...あ、アイくん...」

「なにしてるの?」

アイがなにもない真っ黒なビロードのような記憶の空から降りてきた。

「こ、これは、その...あれじゃ、勉強じゃよ。本当の歴史の」

アイはそのへんに腰掛けてのんびりとこちらを見ている。

「ふーん」

「でも、これあまり面白くないよ」

「...そうじゃのう、わしもそろそろ帰ろうとしていたところじゃ」

「......」

「最後に一つだけ聞きたい。地球の生き物たちは死滅したはずじゃったが、それを生き返らせたのは...きみかね?」

アイはゆっくりと起き上がり、あたりがピカピカと暗くなった。

アイは手に箱を取り出してみせた。箱の色は...わからない。

「これはなんじゃ?」

次の瞬間、箱はボロボロと崩れ始め消えてしまう。そして、アイはまた同じ箱を作った。

「さっきと同じものじゃのう。ただ、わしには君が何を言いたいのかさっぱりわからん」

「周りからは同じに見えても、これは違うものだから」

「それは、君がそうしたからじゃろう。内部がどうなっているのかわしにはわからん」

「ううん。どれだけアイの力を使っても同じものは作れない」

「え?そんなばかな」

「ここに同じものは一つもないから」

「いや、あるじゃろう。わしらが作る兵器もあれは寸分たがわずすべて同じもののはずじゃ。もし君が望むなら生命さえも生き返らせることができるのではないかのう?」

アイは首を振った。

わしはこの瞬間、理解した。彼女は生命を生き返らせることはできない。どれだけ原子的、元素的に同じものを構成しても、そこには違うものが宿るのではないだろうかと。

「では、なぜじゃ。どうやってきみは...」

「...いこう」

わしはアイくんに手を引かれ、その記憶を離れた。

そのあと、わしは考えた。生き返らせることは無理だった。では、過去に戻って因果を修正すればどうなるのだろうと。彼女は、おそらくそうしたのじゃ。

「これから見せるのが、その術じゃ!いくぞ!!」

わしは、未知の力を使い、宇宙の外を夢見た。それがわしの願いじゃった。

だが、わしの存在が終わるとき、わしが最後に願ったのは

「...ああ...アイくんに...もう一度だけ...あいたいのう...」

次の瞬間

「......」

うん!?あ、アイが目の前に姿を現したぞ!!

あ、あれ...こ、ことばがでない。わしも...これでおわり...なのか...。

でも、まだ...言いたいことが...ある。

「...さあ...い、っておいで...」

「うん」

「がらがらがら」

オクト星のホコリが被った歴史館が崩れ落ちた。

元通り

上では今まで見たこともない光景が広がっていた。

オクトカットや街が次々に姿を現してく。

プランは上空からその様子を見回し、驚いていた。

「...オクトカットども...一体、どんな方法を使った」

その下には、ドライとリーマンが立っている。こちらを見ているようだ。

「ドライくん、いけるかい?オクトカットがまた全滅するかどうかは君にかかってる。僕たちも全力で援護する、おそらく兵器は使えるようになっているはずだ」

「...大丈夫。あいつの光をとってぶちかましてやるつもりさ」

「そうか、まだわかっていないようだな...もういい、おわりにしてやる」

「ぎゅんーーーーー!」

プランは片手を上げて燃え盛る球体を呼び出した。それはみるみると大きくなり、やがて空を覆った。あちこちでフレアが球体から飛び出している。

「う、うそだ...こ、これじゃあ、もうどうしようも...」ドライが弱気になった。それもそのはず。大きすぎるのだ。

「お、おわった...」

「あ、あれ?」

「...ちょっとおかしいな」リーマンがつぶやく。

「僕たちが最初に見た光もこうだったけど、でも、その影響が感じられない...まるで、まるで相手のあれがこっちには届いていないかのようだ」

「...そ、それは、でも、あれが地上にぶちまけられたら終わりだよ、そうだろ?」

「前の光景は、あれが発現した時点で爆発的に地上から悲鳴が上がり、地割れが起きた。でも、なぜ今回はそうはなっていない。なぜだ!?」

「もしかして、7代目の力なんじゃない

「...いや、それはない。もう7代目は完全に消えてる」

プランは思案した。何かがおかしい。今現在、太陽の一部をここに発現させたが、それだけでもこの星は終わっていたはずだ。なのになぜまるで影響が出ていないのだ。

それに、妙な気配がする。この気配、昔どこかで...

「おまえ、どこかで見た顔だ...」プランが言った。

その視線の先には

「え?あ!アイじゃん、いつの間に来たのさ!!」

「でも何しに来たの悪いけどアイが来ても役に立たない、あいつ、強すぎる...」

「ここを守ってるのはおまえか?」

プランがアイにといかけた。

まあ、なににせよ、質量をぶつければ終わりだ。面倒だが地上に落とすか。プランはそう考え、手を前に出す。

しかし、アイの方が早かった。

アイの瞳が大きく映し出され、やがて、そこに吸い込まれていく。

場面が切り替わり、アイの中にアイがいた。目をつむり、眠っているようだ。幾重にも空の色が重なる球体の中にいる。

「中性子!」

「!!!!!」

何かが起こった。プランは頭上の太陽を見る。それが徐々に小さく、内部崩壊していくようだった。黒々とした稲妻が渦巻き、それすらも押しつぶすように光の球は次第に形を変えていく。

「なっ!?なにが...くっ、くそお...!!」

プランは何かに苦しんでいるように見えた。

ここからは0.001秒間の出来事である。

何か得体の知れない小さく黒い球に自分の質量が押されていく。このままではまずいと発現させる質量を増やしてくが、間に合わない。太陽そのものの質量をぶつけるが、それでも中心からの引力は治る気配を見せなかった。く、くそお...ぐ、おおおおおお!

プランは自らのエネルギーを振り絞り、そこから脱出を試みようとする。どれだけ外に向かってとんでも進んでいる気配はない。しかし、諦めるわけにはいかない。ここを振り切らないと、とんでもないことになることはわかりきっているからだ。

そして、長い長い時間が経ったかのように思えた。実際はほんの0.001秒未満の間の出来事であった。ようやっと抜け出した時には、プランの力も残りわずかであった。奪った星々の質量は、完全に散り散りで、使い果たしてしまっていた。

「はあ、はあ...お、おまえ一体...!!」

神が全力の力を出す時、それは何かの特殊能力とか相互作用とかでなく、ただ単純に己の持つ質量をぶつける、それだけである。今回も質量と質量のぶつかり合いだった。だが不可解なのは、このレベルの質量を保持する個体というのは神以外ではあり得ないと言うことだった。

「お前、もしや、星団の...いや、あいつらは常に集団、個人ではない...」

アイのなかにあるアイはボロボロと球体とともに崩れ落ちていた。

「ん!一瞬だけど、あいつのパワーが弱まったように感じたぞ!これなら僕でもいける!!」ドライが叫んで飛び出した。

「くっ!」

今はまずい。あのドラゴンと互角、いや、それ以下のパワーしか残っていないぞ、プランは動揺していた。

しかし、救いは敵からやってきた。

「ま、待ってくれドライくん。アイくんが倒れた」

「ん?アイが倒れただって...でも、いまはあいつをやっつけるのが先だ!!」

アイは確かに倒れていた。ドライは少し振り向いただけで、すぐさまプランに突進した。

プランにとってこれだけでも考える時間は十分だった。

「...しかたない。あいつらを呼ぶか」

同族といえど、あまり呼びたくは無かったが、いたしかたない。神々を呼び出すことにした。

今現在、俺様の順位は13位だが...今から呼び出すのは俺様の質量をゆうに1000倍も超えるようなのやつらだ...覚悟しろ!

「ぐぐん!」

「これはこれは、プランさんではありませんか。まさかあなたに呼ばれるとは思っても見ませんでしたよ...というよりこの協定が発動されることがあるなんて、意外ですね」

闇から現れた騎士がいった。その闇からは続々と他の者たちも姿を現した。

鋼色の騎士のあとに出てきたのは、羽の生えた軽薄そうな男、大きな緑色の龍だ。

神々の協定

「それより協定が発動されたからには、取り決めはご存じでしょうね?」

騎士が言った。

「...ああ、覚えるているさ。終わったら俺様の力の2/3を引き渡す」

「で、罰して欲しいのはあれですか?ん、あの程度の?大丈夫ですかプランさん?」

「いや、あいつじゃねえよ。もう倒れてるが、おそらく、特性は"創造"だ...おまえとは相性が悪かったな第一位の正義とは」

「"創造"?この宇宙で何億年も確認されていないあの特性ですね。嘘を言いなさい。それにあれが神とでも言うつもりですか?」

「...その可能性はあるぜ」

創造、神の中で私が最も相性が悪いと言われる特性です。しかもこのメンツでの相性も最悪です。もし本当だとしたら、仲間に引き入れるべきか、あるいは処分すべきか迷いますね...。

「おいおい、四位と五位はどこなんだ。呼ばれてるはずなのに、最上位のおれらだけがお出ましか?」

第二位、鳥人間の風貌をした軽薄そうな男が周りを見ながらそういった。

「そうですね。用事がある、忙しいとのことで四位と五位はこないそうですよ。こんなチャンスを逃すなんて嘆かわしいですね」頭をフリフリして騎士が言った。

「しかし、あなたも来ないかと思ったのですが、シンオウさん」騎士が大きな龍に話しかけた。

「!!?や、やっぱり、お父さんなの?」

ドライが声を出した。

しかし、緑色のドラゴンは全く別のところを見ていた。そして

「われは帰る」

「?正気ですか、別にいいですけどね。しかし、取り分はなしでお願いしますよ」

緑のドラゴンはそういうと闇の中へと消えた。

「テスト、俺たち2人になっちまったな、はははははっ

な、なぜシンオウが。義理深いことで有名な彼が不可解ですね...それに、妙な気配が...。

「おいおい、そう考え込むなよ。圧倒的な強さを誇る正義(おまえ)に勝てる奴なんてこの世に居ねえよ」

「な!なんだ...これは!?」

騎士が何もない周りを見渡してそう言い放った。

そこにあったのは単なる風景だった。

しかし、アイにしか見えなかった"それ"がテストにも見えていた。

宇宙でも非常に稀であるその現象は、"自然"が自らの意志を行動に移すことができると言われる。それがこの星、いや...それ以上にこの銀河のあちこちで顔をのぞかせているようだった。

天の川

少し場面を省略します

「...我々も帰りましょう」

「へ?なんでだよ!?」

「不確定要素が多すぎます。我々はあれに囲まれているようです。こういう状況は好きじゃない」

「...わーったよ。相変わらず慎重なやつだ」

「おい!何言ってる!協定はどうした?」

「協定は無効です。では、ごきげんよう」

「おい、帰るんんなら、ゲートを出せよ」

「...ゲートが出ません。どうやら」

「むくり」

アイが何事もなかったかのように起き上がった。

「!!」

「あれが邪魔しているようですね」

「へえ、身の程を知らないやつだ。ぶっとばす!」

アイは、微動だにせず、テストたちを見据えている。その様子は、まるで、こうなることを予期しているようだった。

アイの瞳が大きく映し出され、やがて、そこに吸い込まれていく。アイの中にいるアイが再び元通りになっていた。球体の中にいて眠っているようだ。しかし、先程と違うのは、いくつもの青い光でつながる球体だった。無数に広がっている。

アイの瞳から現実が映し出され、アイが上に向かって人差し指をふった。

「天の川!」

キラキラと遠くにあった光がやがて大きくなり、近づいてくる。